図書館の電子ブックのウェブサイトで見つけた本。電子ブックで読み始めました。でも図書館の紙の本をすぐに借りることができたので、そのあと紙の本に乗り換え。

タブレットの画面よりも、いまだに紙の本のほうが読みやすく感じるのは、単に慣れのせいなのかな。電子ブックを使い慣れたら、いつの日か、電子ブックの方が読みやすい!と感じるようになるのでしょうか?

Only in Finland: Suomalaisen järjenkäytön tähtihetkeä

パッと見ると、英語で書かれた本?! と思ってしまいそう。でも、副題を見た時点でその誤解はとれますね。副題は完全にフィンランド語なので。

Only in Finland
Suomalaisen järjenkäytön tähtihetkeä
著者:Vesa Sisättö
出版: Suomalaisen Kirjallisuuden Seura , 2018年

歴史の中には、なんでこんな馬鹿なことが起こったんだろ?っていうことがいろいろあります。もちろんフィンランドにも。

フィンランドの歴史の中のそんなあれこれが集められているのがこの本。

それぞれの章は数ページと短い。内容的にも独立しています。だから、気が向いたときに本を適当にパラッとめくって、気軽に読みだすことがでます。

なかなか笑える本でした。とはいっても、「大笑い」ではなくてどちらかというと「苦笑い」かな。

出版社サイト内のページです。ページには、この本の目次(Sisällysluettelo)へのリンクも。



ところで、本で取り扱われている数々のエピソードの中に、一つだけ日本ともかかわりのあるものがあります。ビールが外交問題を引き起こしたというもの。

かつてフィンランドには Amiraali-olut(海軍大将ビール)というビールの銘柄がありました。そしてこのビールのラベルには、各国の有名な海軍大将の肖像が使われていたのです。ラベルの種類は24。その中の一つが東郷平八郎。

1983年のこと。佐藤文生氏が、東京ーヘルシンキ間の空路の開通に尽力したことに対して与えられた勲章を受け取るため来芬。

佐藤氏へのもてなしの席で、東郷平八郎ラベルの Amiraali-olut が振る舞われます。さらには同ビールが、お土産として日本に持ち帰られるのです。

折しも翌1984年が、東郷平八郎の没50年。このビールに気をよくした佐藤氏と中曽根康弘氏の間で、東郷平八郎没50年の記念式典に、フィンランド人を招待しようという話が持ち上がります。

早速、日本のフィンランド大使館に打診。大使館側では、式典への参加に応じることにします。

ところが…

ソ連からフィンランドに苦情が来る。東郷氏はロシア軍を破った軍人。ソ連にとっては面白い話ではありません。

日本のフィンランド大使館には、本国フィンランドからこのことについて問い合わせがあります。

結局、大使館として式典には出席することに。でも、ソ連との外交を考慮して、大使ではなく、別の役人が赴きます。そして…
Hän kiitteli tilaisuudessa Togoa siitä, että Tsushiman meritaistelu aloitti prosessin, jossa keisarillinen venäjä viimein hajosi. Tämä puolestaan johti lopulta Suomen itsenäisyyden.(彼は式典で、対馬の海戦がロシア帝国が崩壊の過程の発端となったと、東郷への感謝を述べた。このロシア崩壊がフィンランドを独立へ導いたとも。)
本ではまだ話が続きますが、ここでは特に書きません。
そのかわり、自分が長年抱いていた2つの謎について書いておきます。このエピソードを読むことで謎が解けたので。

まずは「東郷ビール」の謎。

「フィンランドには東郷ビールがある」…たしか、1990年代の旅行ガイドブックにそう書いてありました。「東郷ビール」があるという伝説?!は、そのほかにも何度か見聞きしたことはあります。でも、フィンランドに来てから一度もそんなビールに出会ったことなんてない!そんなビールを知っているっていうフィンランド人にさえも会ったことがない!!

そりゃあそうですよね。「東郷ビール」なんていうのはもともとないのですから。それなのに「日露戦争を記念して東郷ビールが作られた」なんていう話もあるらしですから、デマというのは恐ろしい。

ちなみに、Amiraali-olut 自体の発売は1970年から、東郷平八郎のラベルも使われるようになるのは1971年から…日露戦争とは全然関係ありません。

もう一つ謎だったのが「フィンランド人は日本のおかげで独立できたと思っている」という話。

でも実はこの話、日本人からしか聞いたことがない!

そう思っているらしきフィンランド人に会ったことはないし、そんな内容のフィンランド語での記述を目にしたこともない!!!!!

でも、この本を読んで自分の中では謎が解けました。「フィンランド人は日本のおかげで独立できたと思っている」という話のもとは、東郷平八郎没50周年式典のフィンランド大使館職員のあいさつだったのではないかと。それが勝手に単純化されて独り歩きしたんじゃないかと。…もちろん憶測でしかありませんけれど。

何はともあれ、人の話をうのみにするのはよろしくないようです。出所が分からないのものについては疑う、っていうぐらいがちょうどいいのかも。

"Only in Finland: Suomalaisen järjenkäytön tähtihetkeä"の意味

単語をひとつひとつ見ていきます。

Only in Finland はもちろん英語。だからここでは置いといて…

suomalainen フィンランド(人)の (書名では単数属格 suomalaisen

järjenkäyttö järki コモンセンス・常識 の単数属格 järjen käyttö 使用 の複合語。意味はそのまま解釈すればいいのだろうけれど、日本語でぴったり当てはまりそうな言葉が、自分には思い浮かびません💦 (書名では単数属格 järjenkäytön

tähtihetki は、tähti hetki 瞬間 の複合語。「星の瞬間」とは日本語では言わないでしょうけれど、「輝く瞬間」って言い方はありかな。きっとそんな意味。あえて訳せば ハイライト。(書名では単数分格形 tähtihetkeä

つまり書名は『フィンランドだからこそ!フィンランド式常識観がもたらした歴史のハイライト』って感じ? かなり意訳だけれど。

ところでこの副題は「皮肉」でしょうね。フィンランド人によるフィンランドの史実の自嘲…好きです、こういうの。

著者について

著者の Vesa Sisättö は、1969年生まれのフィンランド人ジャーナリスト・評論家・ノンフィクション作家。

参考ウェブページ

外交問題に発展?したビールについて書かれているページがインターネット上にもあったので、リンクしておきます。

これは、Seura という週刊誌のサイトのもの。


こちらは、Tamperelainen という地方紙のサイトです。東郷ビール?に関わる日本で書かかれたでたらめ歴史?!についてもちょっと書かれています。