12月6日は、フィンランドの独立記念日。フィンランド共和国は、一昨日99歳になりました。

さて、日本語には「母国」という言葉がありますね。でも。フィンランド語では「母国」とはいいません。その代わり、isänmaaisä の属格 isän + maa = 父の国)つまり「父国」といういい方はあります。

国を、日本では「母」とみなし、フィンランドでは「父」とみなす…どうしてなんでしょう?

家父長制の名残?

インターネット上の情報を垣間見た限りでは、「父国」の背景には、ヨーロッパに昔からある家父長制の文化が影響しているのだろうという話。

なるほど maa土地という意味もある)は、家父長制の社会では、父親に属していたわけです。ですから、土地は文字通り isän maa (父の土地)であって、äidin maa母の土地)はあり得なかったわけですね。

そういえば、フィンランド語では先祖祖先のことを一般には esi-isäesi- 前のプレ + isä)といいますわ。これも、家父長制社会の影響ですかね?


「父国」という理由として、土地を守るのは男だったからだとか、国を守るために戦争に行ったのは男だったから、などという記述も見つけました。


でもまあ、家父長制説も含め、いずれの説にしても信頼できるページのものではないので、結局のところ真相はなぞです。

日本語ではなぜ「母国」?

家父長制が「父国」の背景にあるのなら、日本だって「母国」じゃなくて「父国」となりそうなもの。でも、「母国」なんですよねえ。

天皇家だって家父長制ですよね。特に、「お国のために」「陛下のために」なんていっていた時代、国を「母」とみるよりも「父」とみたほうが自然じゃなかったかとも思うんですけどね。天皇は男性ですから。でも、天照大神までさかのぼれば、「母国」もあり得るか…


もっとも、実際にはそういう話は関係なくて、生まれ育った国だから「母国」というみたい。「母」という漢字には「もと。根源。物を生ずるもととなるもの」(新漢語林)という意味がありますし。


ところで、日本語には「母国」以外にも同じような意味の言葉がありますよね。「祖国」とか「故国」とか…

似通った言葉だけれど、意味合いは微妙に違う…そういうのって、どこの言葉にもありそうです。もちろんフィンランド語にも。

kotimaa と isänmaa

kotimaakoti ホーム + maa )という言葉があります。ホームランド、つまり祖国母国の意味になります。isänmaa も日本語にすれば祖国とか母国の意。でも実際には、kotimaa isänmaa には違いがあるのですよ。

「(私たちの)祖国フィンランド」というときには、
"kotimaamme Suomi"
 という言いかたも
"isänmaamme Suomi"
という言いかたもあり得ます。どちらも Kielitoimiston sanakirja に例として載っていました。

「彼は祖国のために戦った」というときもおそらく、
"Hän taisteli kotimaansa puolesta."
もあり得るし、
"Hän taisteli isänmaansa puolesta."
もあり得る。ただしこの場合には、後者のほうがしっくりします。


「ムーミン(たち)の祖国は フィンランドだ」と言いたいときには
"Muumien kotimaa on Suomi."
とは言えるけれど
"Muumien isänmaa on Suomi."
とは言いません。


kotimaa という言葉は何の感情も含みませんが、isänmaa という言葉は、愛国心のような感情を含んでいるようなんですよね。

ちなみに、kotimaa から派生した形容詞 kotimainen 国産のという意味ですが、isänmaa から派生した形容詞 isänmaallinen は、愛国的なという意味になります。

さいごに

日本語にしてもフィンランド語にしても、言葉って難しい。

似たような言葉の微妙なニュアンスの違いって、どうやって身についていくものなのでしょう? 見聞きする中で自然に身につくもの? それとも辞書で確認しながら身につけていくもの?