人間以外の動物の性別を表すのには、一般には「メス」「オス」という言葉が使われますよね。もちろん犬の場合もそうなのだろうと思いきや…

日本では自分の犬について「オス」とか「メス」言われると、気を悪くする人もいるとかいないとか。そういう人たちは「男の子」「女の子」と言ってほしいらしい。まあ、インターネットでざっと検索した限り、そんな話に当たる数自体はたいして多くはありませんでした。「オス」「メス」の表現が嫌!というのは少数派ということなのかもしれません。

さて、フィンランドではどうでしょう?

思うに、「オス」「メス」といわれて不快に思うということはなさげ。でも、犬の性別を「男の子」「女の子」と言うことも別にめずらしくはありません。

どっちがいいとか悪いとかではなく、単に状況によって使い分けている感じでしょうか。

あ、それからフィンランド語には日本語と少し違うことがあります。それは、「オス」「メス」を表す言葉はそれぞれ一つずつではないということです。

メス

NAARAS

日本語の「メス」に該当する言葉です。生物学上の「メス」の正式名称。犬の性別を表す場合にも普通に使われます。

NARTTU

前述の NAARAS は、動物一般につかわれますが、NARTTU は意味が狭い。犬や猫の場合に使われるようです。

ただこの言葉、女性に対する罵倒語としても使われることがあるんですよ。英語の BITCH の使い方の影響を受けているのか、あるいはこの類の罵倒語は万国共通なのか…

犬や猫の話題のときにこの言葉を使うのは全然問題はないだろうし、別に誰かを嫌な気持ちにさせるということもないとは思います。ただなんとなく、私自身はあまり使わないかも。

罵倒語として使われることがあるからというだけでなく、母語である日本語の影響かもしれません。NAARAS という言葉で表現できるのであればそれで充分。犬や猫の場合だけ別の言葉を使おうとは思わない…というのは建前で、単に頭が回らなくてとっさに言葉が出て来にくいというのが本当のところかも😅

オス

KOIRAS

日本語の「オス」に該当する言葉です。生物学上の「オス」を表す正式名称がこれ。ただ一般に、犬を含めて、哺乳類、特に大型哺乳類のオスの場合は後述する別な言葉を使うことが多い気がします。

ところでこの言葉、「犬」という言葉にとても似ているのですよ。フィンランド語で「犬」は KOIRAKOIRASKOIRA…そっくりでしょ?


それもそのはず、この2つの言葉はどちらも語源は同じ。もともとは「オス」の意味の言葉だったそうです。のちフィンランドでは、KOIRA は性別とは無関係に「犬」の意味として使われるようになり、KOIRAS が「オス」の意味として定着したらしい。

UROS

これも「オス」の意。哺乳類、特に大型哺乳類の場合に使われます。犬の場合もたいがいこれです。

KOIRAS との違いは、UROS という言葉には「雄々しさ」みたいなニュアンスが含まれるということ。立派な角をもったヘラジカだとか、ジャングル大帝みたいな(?)ライオンだとか… そういうのは KOIRAS というよりはまさに UROS !

とはいうものの KOIRASUROS は同義語とも言えるわけで、その使い分けは時代とか地域によってもある程度の違いはあるみたい。絶対的な正しい使い分けというものはなさそうです。

女の子・男の子

TYTTÖ

日本語の「女の子」に該当する言葉です。人間に使われる言葉ではありますが、犬の場合にも使われていますね。特に口語では、NAARAS とか NARTTU っていうよりも、TYTTÖ っていうほうが多いかも。

あと、ワンコに「いい子だね〜」なんて呼びかけるときにもこの言葉を使います。英語だと Good girl! なんて言いますが、そのフィンランド語バージョンが Hyvä tyttö! 。

POIKA

日本語の「男の子」に該当する言葉です。TYTTÖ と同様、人間に使われる言葉ですが、犬の場合にも使われます。

英語でいう Good boy! のフィンランド語バージョンは Hyvä poika! 。 

もっともこの単語、TYTTÖ とは多少の違いがあります。時と場合と動物によっては、オスかメスかに関わらず、「仔」を表す言葉として POIKA が使われることもあるらしい。私自身は、辞書を読んではじめてそのことを知りました。だからおそらく、そんな使い方はそれほど一般的ではないのかと思いますが。

結局 犬の性別を表す言葉は…

一般には NAARAS(メス)、UROS(オス)でしょうか。動物病院などのウェブサイトで使われているのはそれらです。

とはいうものの、口語では TYTTÖ(女の子)とか POIKA(男の子)ということが多いかも。例えば散歩途中で初めて会った犬の飼い主とのおしゃべりの中で犬の性別を訊ねるとき Tyttö vai poika?(女の子?それとも男の子?)って感じに言うことが多いんじゃないかな。「メス」「オス」という言い方が嫌がられるからというわけではなくて口語ではそれが自然だから。

私個人の感覚としては、NAARASUROS はちょっと改まった感じの言い方。普段のおしゃべりでは TYTTÖPOIKA を使うかな?って感じです。もっとも、言葉の感覚には個人差もありますし、私にとってフィンランド語はあくまで外国語。多くのフィンランド人たちが私と同じような感覚なのかどうかはなんとも言えませぬ💦 とはいうものの、少なくともフィンランド人であるうちの夫は、私と同じ感覚みたいです。

いずれにしても一般に、「メス」「オス」と言われると嫌だ!という(一部の?)日本人のような感覚は、フィンランドにはないんじゃないかなあ。「メス」「オス」か「女の子」「男の子」かは、単に、時と場合に応じた使い分けなのだろうと思うのです。


ところで、今回あれこれ考えていて気づきました。英語でもフィンランド語でも、「女の子」「男の子」を意味する言葉が「女性」「男性」とは全く別物として存在するのに、日本語の場合にはそれらがないと。つまり、英語であれば WOMANMAN とは似ても似つかない GIRLBOY という言葉がある。フィンランド語では NAINEN(女性)や MIES(男性)とは全く違う TYTTÖPOIKA という言葉がある。でも日本語の場合はそうではありません。「女」「男」という言葉に余分なもの(?)をくっつけて「女の子」「男の子」という言い方をする。西洋と日本、思考回路にどこか大きな違いがあるのでしょうか???