小説 Myrskyluoto シリーズ関連記事 音楽とテレビドラマとその原作)五部作の中の、第一作目『Tie Myrskyluodolle』を読みました。

Tie MyrskyluodolleMyrskyluoto より)
著者:Anni Blomqvist
訳:Björn-Christer Lindgren & Liisa Ryömä
出版:Gummerus  2010年

実際に手にしているのはこんな本↓

Myrskyluoto
著者:Anni Blomqvist
訳者:Björn-Christer Lindgren & Liisa Ryömä
出版:Gummerus  2010年
(参考: Myrskyluoto | Gummerus Kustannus 

Myrskyluoto シリーズは、主人公 Maija の人生を、Myrskyluoto という島を舞台に描いた作品です。ただし、この一作目は、Maija が Myrskyluoto に移り住む前の話。

Maija は、両親・兄弟姉妹・使用人たちと生活しています。そんな中、思いがけなく Maija の婚約が決まってしまう……


この作品の原作である『Vägen till Stormskäret』がスウェーデン語で最初に出版されたのは1968年。そして、そのフィンランド語訳『Tie Myrskyluodolle』 の初版は1974年です。


19世紀の島の生活

この作品は、19世紀のオーランド諸島の一角を舞台にしています。西暦何年か、というのは定かではありません。でも、作品に取り上げられている出来事や、かつて放映されたテレビドラマ(関連記事 音楽とテレビドラマとその原作)を見ると、『Tie Myrskyluodolle』の時代設定は、1830年代の終わりごろから1840年代初頭のようです。

この本は民俗学の本ではなく、あくまで小説です。そうは思いながらも、私にとって面白かったのは、実はストーリーそのものよりも、当時の生活の様子でした。

労働と家族

Maija の家族の生活は、漁業・農業などで営まれていたようです。

乳牛や羊は女性の管轄。漁業や航海のほうは男性中心。それでも、Maija が父親と一緒に網を確かめに行く場面もありますから、女性が一切かかわらないというわけでもなかったらしい。

生活を成り立たせるためには、子供を含め、家族全員+α(Maija の家には住込みの手伝いさんもいました)の労働が不可欠だった時代です。例えば、家族総出での脱穀や牧草狩りなど…… この時代の「家族」って、「労働共同体」ともいえそう。


当時は、家父長制でもあったようです。Maija の婚約だって、相手側の父親から申し入れがあり、Maija の父親が決断したこと。Maija 本人の意思なんて一切聞いていません。

子供は、親ににらまれればすぐおとなしくならざるを得なかったし、食事は静かに食べなければいけなかったらしい。子供が大人の話に口をはさむなんていうのは、もちろんもってのほか。……昔の日本と同じでしょうかね?

結婚にかかわる慣習

結婚に向けての準備の一つとして、Maija が叔父に連れられて、袋をもって近隣の家々を訪ねるという場面があります。

女性は嫁入り前に、必要なものをいろいろ作らなければなりません。その材料をもらい歩くという慣習らしいです。袋に入れられたものは、亜麻糸であったり毛糸であったり麻布であったり。いずれも、衣料品を作るために必要なもの。

結婚までの限られた期間に、全部を一人で用意するのが大変だというのは、当時の女性なら誰でも知っていたはず。服作りを糸紡ぎから始めなければいけない時代だったようですから。


結婚式はなんと3日間です。大ざっぱな内容をいえば、1日目が結婚の儀式、2日目は結婚のプレゼントを新郎新婦に差し出す、3日目は新郎新婦が客にふるまう……なかなか盛大な行事です。

でも当時は、そういうときでもないと親戚一同が集まるっていうことはなかったわけです。結婚式は、絶好の交流の場だったのでしょう。

結婚式の飾りの中で面白いと思ったのは「鏡」。どんな意味合いがあるのかは知りませんが、近隣から借りられるだけの鏡を借りて、部屋に飾ったようですよ。

「島」だからこその生活

島暮らしというと「嵐のときには船が出せない」ぐらいは想像がつきます。でもここは北国。

寒くなれば海も凍結します。氷が十分に厚くなれば、徒歩や馬車でも近隣の島々に行き来できます。でも、凍り始めの時、あるいは氷が解け始めるころは、氷の上を歩くこともできません。

また、冬によっては氷が十分に厚くならず、一冬中、人が歩くのも危ぶまれることもある。そうなると、よその島に住む人たちがどうしているのか、なんてことは、海の氷が解けて船が出せるような時期にならないとわからないのですね。電話も無かった時代の話ですから。


オーランド諸島のそれぞれの島は、さほど大きいわけではなさそうです。そうすると、住んでいる島に畑もあって牧草地もあって店もあって……ということにはならない。

例えば、Maija の家族は、牧草狩りに「船」で出かけます。島で牧草を刈って、それを船に積んで自宅のある島に運ぶのですよ。

一方で、家畜の冬用の藁はよそから買う。でも、それも船で運ばないといけない場所から。

とある年の秋は、天候が悪く、なかなか漁にも出られない。他の仕事もはかどらず、なかなか藁を受け取りにいけません。そんな中、やっと男衆が藁を仕入れに出て戻ってくるという日の夜、風はなく、空気がどんどん冷えていく……

航海中に突然船が氷にふさがれて身動きがとれなくなるなんてことは想像できないのだけれど、実は氷ってあっという間に張るのだそうです。それで遭難するということもあり得るらしい。


このことも含めて、島の生活については、言われてみて初めて気付くということがいろいろありました。その多くが、島で生活する人たちにとっては常識なんだろうけれど。

著者について

Myrskyluoto シリーズの著者 Anni Blomqvist(1909~1990年)は、漁師の子として生まれ、船乗りと結婚。一生をオーランド諸島で暮らしました。

1961年に夫と息子が嵐で亡くします。その悲しみを乗り越えるために、彼女は小説を書いたのだそうです。

本人は自分のことを、「作家」ではなく「語り手」なのだと言っていたとか。自分が語り聞かされた親の世代だとか祖父母の世代のことを、さらに後世に伝えていく、そういう思いがあったのかもしれません。

ちなみに、この Myrskyluoto シリーズの主人公 Maija のモデルは、著者 Anni の大叔母だそう。

"Tie Myrskyluodolle" の意味

"Tie"

tie のことです。ここでは物理的な道を表しているわけではありません。でも、日本語の「道」にもそんな使い方がありますから、ここでも単に「道」として違和感はないでしょう。

"Myrskyluodolle"

Myrskuluoto(小説の舞台となる島の名)の単数向格。方向を表します。日本語で「~へ」というのに相当するでしょうか。ですから Myrskuluodolle Myrskyluoto へ

"Tie Myrskyluodolle"

すなわち、Tie Myrskyluodolle Myrskyluoto への道という意味になります。

次は Myrskyluoto での生活

Myrskyluoto シリーズ第二作目は、いよいよ Myrskyluoto での生活。更新できるのはいつかなあ。

テレビドラマ

Myrskyluoto シリーズは、1976年にテレビドラマ化(全6話)されています。現在、フィンランド国営放送Yleがそれら全作品をオンデマンドのサイトで公開しています。国外視聴可能です。

このシリーズ一作目『Tie Myrskyluodolle』 の内容に該当するのは、ドラマの第1話。、このページ ↓ で見ることができます。