前回の記事で(【フィン語】「母国」と「父国」)、フィンランド語には「母国」といういい方はないけれど「父国」といういい方はある、ということを書きました。

じゃあ「母」の出番はないのか?というと、そんなことはありません。musta kahvi さんがコメントをくださったとおり、äidinkieliäiti の属格 äidin + kieli 言語 = 母の言語 つまり 母語)という言葉があります。日本語でいう「母語」はフィンランド語でも「母語」なのです。

どうして「母語」なのか?

理由を探してはみましたが、見つかりませんでした。

基本的に母親が育児に従事してきたという歴史があるから?
それとも、単によその言語(ドイツ語?)をフィンランド語に訳しただけ?

「母語」と「母国」と「父国」

どの単語に対しても、いろんな疑問ってわいてくるものです。でも、「母語」が「母語」であることはスルーできてしまったんですよね。きっとそれは、日本語もフィンランド語も同じような言いかただから。一方で「母国」が「父国」というのは、ひっかかった。日本語の「母国」という言いかたになじんでいたから、「父国」という言いかたを不思議に思ったわけです。日本語の考え方とは違ったから、あれ?ってことになった。

時に逆もあります。フィンランド語の言いかたに慣れてそれが自然に思えるようになってしまうと、日本語の言い回しに違和感をもつことがある。そのひとつが「母国語」という言葉です。

「母語」と「母国語」

日本語では「母語」と「母国語」を区別しないことも多いですよね。手元の辞書にさえも「母語」の項に「人が生まれて最初に習い覚えた言語。母国語。」(by デジタル大辞泉)と書かれています。この解説じゃ、まるで「母語」=「母国語」です。

でも、フィンランド語を使うようになってから、「母語」と「母国語」を同じ意味で使うことに、とても違和感を覚えるようになりました。「母語」は äidinkieli と素直に受け取ることができるのだけれど、「母国語」といわれると kotimaan kielikotimaan 母国の kieli 言語)と考えちゃうんですよね。kieli という部分を別にすると、全然違う言葉でしょう? そのせいか、「母語」と「母国語」を全く別物にしかとらえられなくなったのです。

もっとも、そう考えられるようになったのはよかったことかもしれません。日本語で考えてみても、厳密に言えば「母語」と「母国語」では、言っていることが違うはずですから。日本にいるとつい混同してしまいがちですけどね。

フィンランドの国語は1つではない

フィンランドの kansalliskielikansallis- 国の + kieli 言語国語)は2つあります。一つは suomi フィンランド語、もう一つは ruotsi スウェーデン語です。

さらに、kansalliskieli 以外にも、昔からフィンランドで使われている言葉があります。例えばサーミ語ですね。

もし、サーミ語を母語として育ったフィンランド人に「母国語は?」と尋ねたとしたら、どう答えるでしょう?


国の言語(公用語)は必ずしも1つではないし、母語が国の公用語ではないのもめずらしい話ではない、ということに日本を出てから気づきました。そういうことも、日本語での「母国語」の使い方に違和感を覚えるようになった理由かもしれません。

さいごに

他の言語を知ることは、自分が今まで使ってきた言語をあらためて見直すいいきっかけにもなりそうですね。