紙の本もオーディオブックも出版されていますが、私が読んだのは、図書館から借りた電子ブック。

Syvyyksissä: Synkät vedet 1

月、松の木、海、舟、海岸。そしてその薄暗い風景の中に、ホタルのような小さな幾つかの光。妖精? …読後に表紙を改めてじっくり見ると、本の内容をよく表していることに気づきます。

Syvyyksissä
– Synkät vedet 1 –
著者:Camilla Sten & Veveca Sten
訳者:Tuula Kojo
表紙:Eric Thunfors
出版: Otava , 2017年

Tuvaは12歳の少女。両親とともに島に住んでいいます。通学はÖstermanが操縦するスクール船で。同じスクール船には、他のいくつかの島からも少年・少女たちが乗り込んできます。そして学校もやはり島にあるのです。

そんなふうに海に囲まれた生活をしてきたTuvaにとって、海は慣れ親しんだ身近な存在のはず。ところがこの秋は、何故か胸騒ぎがする。海を見るのが怖い。

ある日、学校でのオリエンテーリング中にTuvaのクラスの少年Axelが行方不明に。同じ頃Tuvaは、妖精たちを目にします。

それが何を意味するのかTuvaにはわかりません。そもそも、妖精がいること自体が信じられない。でも、Axelと親しい友達同士であったRasmusも、同じように妖精を見ている。

TuvaもRasmusも、大人たちにはこのことが話せません。きっと信じてはもらえないから。でも、お互いに話すことで2人は少し心を軽くするのです。

Tuvaの胸騒ぎは静まりません。海に何かがいる…

Tuvaと父親の乗る船が転覆します。2人とも無事でした。でもこのとき、Tuvaは自分の中の何かに気づくのでした。

そしてTuvaは自分の出生の秘密を知ることになります。自分が何者なのかということも。自分に課せられたあまりにも重い期待。そんな期待には応えられそうにない。怖い。死ぬかもしれない。

それでもTuvaは、暗い海に出るのです。母を助けようと。



本の紹介文を読んだはずなのに、実は、何故か大人向けのミステリー系の本だろうと誤解したまま借りました。でも、蓋をあけてみたらジュニア文学。読みやすかったし面白かったから、ラッキーだったかも。

作品の背景には、海水汚染の問題を考えてもらいたいという、著者たちの意図があるようです。作品の舞台にもなっているバルト海は、特に汚染の進んだ海だということだし。

文学作品でのきっかけ作りがどれだけ効果のあるものなのかはわかりません。でも、なかなか粋なアイデアだと思います。

"Syvyyksissä: Synkät vedet 1"の意味

syvyys 深さ の複数内格が syvyyksissä。「深いところで」とでも訳せばいいのかな。

作品は 「Synkät vedetシリーズ」の1冊目らしい。
synkkä 暗い の複数主格が synkät
vesiの複数主格が vedet
つまりシリーズ名は「暗い水」。

原作名はスウェーデン語『Djupgraven』。

著者について

著者の一人、Viveca Sten(ヴィヴェカ・ステン 1959年生まれ)は、スウェーデンの推理小説作家。彼女の作品の中には、日本語訳されているものもあるようです。

もう一人の著者、Camilla Sten(1992年生まれ)は、Vivica Stenの娘だそう。母娘で一つの作品を書くなんて、なんだかほっこり。