きっかけは、musta kahvi さんのブログ 気分はもうSuomi  でした。

この記事 → 初雪は入格に降る – 気分はもうSuomi に、「初雪が降る」ことを表している文例が集められています。そしてそれらを見てみると、初雪は主格が降る – 気分はもうSuomi で musta kahvi さんも書かれている通り、ただの雪の時と初雪の時では、使われる格が違うということがわかるのですよ。

単純な文で比較するとこういうことです。

Sataa lunta.(雪が降る)
Sataa ensilumi.(初雪が降る)  

lunta は、雪を意味する名詞 lumi の単数分格です。一方で、初雪を意味する ensilumi は単数主格で使われています。

musta kahvi さんの記事を読んで、私もこのことが気になってしまったのです。そこで確かめてみたのですが……

部分なのか全体なのか

雪を不定量の物質としてみるか、全体としてまとまったものとしてとらえるか、それらの違いが、表現の違いとして表れているようです。

普通に「雪が降る」というときの「雪」は、ひとまとまりのものではなく、不特定な物質。一方で「初雪が降る」というときは、「初雪」というものが一つのまとまったものとして捉えられている。それで一般に、「初雪」の時には主格が使われるのですね。

そういわれれば、使い分けもなんとなく納得できます。また、「初雪」で分格が使われることがあっても、それは書き手のその文中での「初雪」のとらえ方の違いなのだと考えれば、矛盾もありません。

でも、これで一件落着とはなりませんでした。フィン・フィン辞典 Kielitoimiston sanakirja を見てしまったからです。

文の構造


Satoi ensilumen.(初雪が降った)

という例文があるのです。分格ではなく対格というのは、「初雪」を全体としてとらえているからだろうと納得 できます。でも、なんで主格じゃなくて対格?対格ということは ensilumen は動詞の目的語?

一方で、世間には次の言い方もあるわけです。

Satoi ensilumi.(雪が降った)

この文では ensilumi は主語。日本語でも「雪が降る」と言いますから、上から落ちてくるものが主語というのは、日本人には感覚的にも受け入れやすいですよね。


同じような意味の文でありながら、一方では降ってくるものが主語、もう一方では目的語……え~っ!?なんで???と思いませんか?


ちなみに、分格が使われていると、文型だけでは主語なのか目的語なのか判断できません。

Satoi lunta.(雪が降った)

私としては、主語と考えたほうが分かりやすいのだけれど、誰もがそうとらえるとは限らないようです。

主語も目的語も必要ない

フィンランド語には、主語をとらない文型がいくつかあります。天気を表す文型もその一つ。

Eilen satoi.(昨日(雨が)降った)
Tuulee.(風が吹く)
Salamoi.(稲妻が走る) 

それぞれの文には主語も目的語もないけれど、これだけで文として成り立っています。

でも、場合によっては何かを付け足したい。特に sataa の場合なんかだと、何が降ってくるかを言いたかったりするわけです。

sataa 自体は、主語も目的語も必要ない動詞。だから、どういう言葉を主語とするか、どういう言葉を目的語とするか、という決まりがそもそも無いようなんですよ。それで、書き手がものごとをどうとらえるかによって、バリエーションがいろいろ出てくるらしいです。

主語か目的語か

ensilumi が目的語になっている使い方は、私にはとても違和感がありました。でも、他動詞文の目的語の意味と照らし合わせてみて、目的語である所以がなんとなく分かった気がします。

Tein lumiukon.((私は)雪だるまを作った)

lumiukon は lumiukko(雪だるま)の単数対格形で、tein の目的語。この文では、「作る」という行為の結果「雪だるま」ができたと解釈できます。つまり、目的語は行為の結果を表しているわけです。

その考え方を下の文に当てはめてみると

Satoi ensilumen.

「降った」ということによってできた結果が ensilumi なんだと受け取ることができます。ensilumi を主格として使うときとは、そういうところのニュアンスが微妙に違うのでしょう。

そういえば日本語でも「初雪が降った」とも言うし「初雪になった」とも言いますね。そのへんのニュアンスの違いと共通点があるのかも。

さいごに

sataa を使った文の書き方には、唯一の正解はないようです。文法も考えだすときりがなさそう。

musta kahvi さんが書かれていたとおり、一般には、「雪」が降るときには分格、「初雪」の時には主格を使います。それを覚えておけば十分でしょう。

もっと深~いところまで掘り下げたいときに参考になりそうな、Sääverbien syntaksia ja semantiikkaa:semanttiset roolit, osallistujien vaihtelevakäsitteistäminen ja sääverbien vaihtelevavalenssi という論文も見つけたけれど、悲しいかな、私には難しすぎましたわ。