平易フィンランド語で書かれた科学の本がなかなか面白かったので(関連記事 【科学の本】Valon ja värien maailma -fysiikkaa selkokielellä-:光とは何か?を平易言語で語る本)、歴史の本はどうだろうと、平易言語のフィンランドの歴史の本を読んでみることにしました。

selkosuomi(平易フィンランド語)で書かれた本ですから、ページに文字は詰まっていません。どのページも文字と写真の割合はほぼこんな感じです。

Suomen historia
selkosuomeksi

著者:Pertti Rajala
出版:Kehitysvammaisliitto・Opike  2014年(第6版)

こうしてみると、selkosuomi のテキストって行を変える場所も考慮されているみたいですね。意味のまとまりを考えて、読み取りやすいように改行されているのでしょう。


Suomen historia selkosuomeksi

大きく5つの章 ― 古代フィンランド、スウェーデン支配下のフィンランド、ロシア支配下のフィンランド、独立国家フィンランド、フィンランドの大統領 ー に分かれています。

全部で120ページほどの本。その中に古代からの現代までのフィンランドの歴史が詰め込まれています。より重点が置かれているのはもちろん独立後のフィンランドについて。全体のおよそ半分のページが、独立後のフィンランドにかかわる記述です。

この本は、特別支援学習で活用できる教科書として書かれているみたい。そのせいか、読み物としてはあまり面白いとはいえませんでした。

こういうタイプの本って、物事を表面的にしか取り扱わざるを得ないから、面白くないのかな…


でも、歴史の中の多くの出来事や文化、人物の中から、何が取り上げられ、何が取り上げられていないか、という視点からみると、興味深い点はありました。

男性だから…女性だから…と一般化することは基本的には好きではありませんが、ここでは言いたい!これは絶対男性の書いた歴史の本!!

もちろん名前から著者の性別は一目瞭然。でも、名前を見なかったとしても著者は男性だ、と確信しましたよ、きっと。

ページ数は決して多くはない歴史の教科書だけれど、戦争にかかわる記述が比較的多いのです。そして、もう一つ多いのが、スポーツ界でのフィンランド人の活躍に関するページ。オリンピック、モータースポーツ等で活躍した選手たちのことが、これもまた全体のページ数に対して割合的に多い。

一方で、女性はあまり登場しないのですよ。もちろん、全然出てこないというわけではないですよ。でも、例えば、ミンナ・カントには一切触れていない…その時代の男性文学者たちには触れているんですけどね。

いずれにしても、私には男性視点の歴史本に見えてしまったのでした。


中立の立場で書いたつもりでも、歴史の本って作者の視点がより見えやすいのかも。


フィンランドの歴史をとにかく大ざっぱに知りたいというときには、手ごろな本かもしれません。selkosuomi で書かれているので、読みやすいですし。

でも、フィンランドの歴史をある程度知っているのであれば、この本とは違うタイプの本を読んだほうが面白いでしょうね、きっと。

作者について

Pertti Rajala(1954年~)は、主に特別支援児童・生徒を対象とした selkosuomi の本を数多く書いています。歴史の専門家というよりは教育の専門家(教育学修士、特別支援学校教諭)です。


本についてのより詳しい情報はこちらのリンク↓からどうぞ。


"Suomen historia selkosuomeksi" の意味

最後に、書名の意味です。

Suomen

Suomi フィンランドの単数属格。

historia

歴史 のこと。ここでは単数主格がそのまま使われています。

selkosuomeksi 

selkosuomi 平易フィンランド語 の変格。この格を使って、使用される言語を表しています。

Suomen historia selkosuomeksi

平易フィンランド語を使って書かれたフィンランドの歴史、ということを言っているのでしょうね。

あまりセンスがないですが、訳としては「平易フィンランド語によるフィンランドの歴史」「フィンランドの歴史~平易フィンランド語版~」というところでしょうか?