自分で本を選ぶと、どうしても自分の好みに左右されてしまいます。

それが悪いとは思わないけれど、自分だったら絶対に選ばないような本を読んでみるのもいいかも。そう考えて、図書館に行くという夫に、なんでもいいから適当に選んで本を借りてきてくれるよう頼んでみました。

「ページ数が少ない本」と条件を出したはずなのに、夫が持ち帰ってきたのは、ページ数345頁のこの本。ぜんぜん薄くないじゃん!!!

Kristallipalatsi
著者:Anna-Kaari Hakkarainen
出版:Tammi  2016年
(画像元:http://www.kirja.fi/kirja/anna-kaari-hakkarainen/kristallipalatsi/9789513190019/)

でも、せっかく借りてきてくれた本。読みましたよ、最後まで。

Kristallipalatsi

現代小説です。ちょっと変わった小説だと感じたけれど、現代小説ってそういうのが多いのかな… 小説はあまり読まないのでよく分からないのだけれど。


内容を上手にまとめられないので、とりあえず主な登場人物について書いておきましょう。

語り手「私」はどうやら人文系の研究者のようです。

Dora は人気ファッションブロガー。生活、ファッション、インテリア…彼女のまるで夢のような生活を、ブログに書き綴っています。

裕福ではない母子家庭で育った Pauliina は、地方からヘルシンキに出てきました。理想の生活を送りたいけど、それがなかなかかなわない。

Oscar。彼を小説の登場人物と言っていいのかどうかは分かりません。ストーリーとはほとんどかかわりがないのだけれど、おそらく小説の底辺に流れるテーマと深いかかわりがある。Oscar は「私」を通じて描かれています。この Oscar は、詩人・作家のオスカー・ワイルドを指しているようです。


人は、演じることで理想の世界を作り上げようとしている。でもその世界はもろいものでもある。…そんなことを言いたいのかな? 何となくつかめそうで、でもうまくつかめない、私にとってはそんな小説でした。

知識がないから読み取れなかった?

小説だけれど、特別な知識がなくともさらっと読める本、というわけではありませんでした。

Dora がファッションブロガーだから、いろんなブランド名がたくさん出てくる。ブランドを知っている人は、それを知らない人よりもより明確にイメージできるでしょう。私はブランド名を知らない人間なので、そのあたりはさらっと読み流しました。

ブランド名ぐらいならいいのですが、この本の中には芸術家やら美術品やらヨーロッパの庭園やら… そういうものがたくさん出てきます。読み流してもさしつかえない場合もあるでしょうが、知っていると知らないとでは、読み取り方に大きな違いがあるでしょうね。また、中には知らないと読み取れない部分もあります。

例えば Oscar。最初はわけがわからなかったんですよ、Oscar について書かれている意味が。ここでいう Oscar はオスカー・ワイドのこと。私は知らなかったんですよね、この人が何をした人なのか。Google先生がいなければ、いまいちよく分からん…で終わっていたと思います。

小説の中で話題に出てくる芸術家や美術品は数々あり、最初は調べながら読んだけど(例えば、ウォルト・ホイットマン、ダンテ・ガブリエル・ロッセティと彼の作品”ベアタ・ベアトリクス…)、これはきりがないと、さっさと放棄しました。

もし、芸術家や芸術作品にもっと詳しくて、「ああ、これはあのことね」って、さっとイメージできるのであれば、もうちょっと深く読めたんじゃないかなあ。

とてもよく考えられていて、深みもある小説だと思うのです。でも、私は十分に読み取れなかった…

日本人になじみの言葉も

やっぱり日本人だからでしょうか、日本に関係のある言葉に、つい反応してしまいます。
Hän säilytti vaatteita joko rekeillä tai siististi Marie Kondon oppien mukaisesti viikattuina. (p.21)
ファッションブロガーのDoraが、どのように洋服を収納していたかについての記述です。なんと、こんまりさんが出てる!


一方で、こんまりさんより古い言葉にも遭遇。
Hän aloittaisi heti, tekisi kodistaan wabi-sabi-henkisen rauhan tyyssijan. (p.231)
「わび・さび」って、西洋でもそれなりに知られている言葉だったんですね。


日本語とは全く関係がないのだけれど、あまりにも日本語っぽく見えた単語があったので、メモしておきます。hikari です。私にはなじみのない言葉でしたが、辞書にはちゃんと載っていました。学校等で使われる卑語。日本語の「がり勉」に相当するのかな。

著者について

Anna-Kaari Hakkarainen(1979年~)は、ジャーナリスト、そして小説家。このKristallipalatsi は、彼女の3作目の小説です。

学位は美術修士。道理で美術に造詣が深いわけだ…

"Kristallipalatsi" の意味

クリスタル・パレス (crystal palace) のこと。

その昔ロンドンに建てられた「水晶宮」(The Crystal Palace) 、あるいはガラスで覆われ外の自然とは異質の人工の世界である植物園、あるいは、ブログ上では理想の自分を演じているブロガーの、ブログ上だけの完璧な世界、そんなものをすべて含んで、この「クリスタル・パレス」という書名なのかな…