3部作『Korpinkehät』(関連記事 【ジュニア文学】Odininlapsi:3部作ファンタジーの第一作目【ジュニア文学】Mätä:3部作ファンタジーの第二作目)の3冊目…最終冊です。

Mahti
著者:Siri Pettersen
訳:Eeva-Liisa Nyqvist
出版:Jalava  2016年

画像元:Mahti - Art House -ryhmän kirjakauppa

ところで、この3部作の表紙の絵(一作目では切られた尾、二作目ではカラスの嘴、そしてこれはカラスの羽)は、この本の著者 Siri Pettersen によるもの。彼女はグラフィックデザイナー…多才な方なんですね。

Mahti (Korpinkehät 3)

Hirka は、人間の世界から、実の父親が生まれ育った世界へやってきます。Hirka が育った Yminmaa とも人間の世界とも全く異なる世界です。

その世界と Yminmaa との戦闘が避けられないものであることを理解した Hirka は、その状況の中で最善の道を模索していく…

というストーリーそのものはさておいて、本を読みながらふと考えたことなどをいくつか。

主人公の性別と対象読者

この本の主人公は15歳(物語の終わりでは17歳ぐらいになってるかな?)の少女。この子がとてもたくましいのです。

彼女の子供時代のライバルであり、その後は深く思いを寄せ合う(といっても、恋愛小説にはなり得ないほどには複雑な関係)青年 Rime も登場はします。一作目では Rime も主人公 Hirka とともに中心的な役割を担っていますが、二作目以降は、あくまで Hirka が主人公。そして、Rime よりも Hirka のほうが精神的は大人だというふうに私には受け取れるのです。Rime のほうが年上ですけどね。

そして、ふと思ったのですよ。主人公が女の子なのか男の子なのかは、読み手が本を選ぶときの基準になる場合もあるのかなって。

国際的にはどうか知らないけれど、フィンランドでは女の子は本を読むけど男の子があまり本を読まない、というのはよく知られている話。

で、考えてみると、最近読んだジュニア向けの本の主人公は少女、というパターンが多かった。単なる偶然かもしれないけど。

読み手にとって、主人公が女の子だろうが男と子だろうが関係なさそうな気もするけど、お年頃の男の子にはやっぱり関係あるのかなあ…。どうなんでしょう?

「歴史」というものについて

シリーズの2作目で、Rime が自分の世界に疑問をもち、本当の歴史が知りたいと図書館にこもるという場面があります。でも、どんなに探しても今まで教え込まれてきた歴史にしか巡り会えない。権力を持つ人々は、自分たちに都合のいい歴史だけが人の目に触れるようにしてきたということらしい。

それって、架空の世界の話じゃなくて、現実の世界についてこっそり批判しているのかもしれない…というのは、考え過ぎ?

物語の中では、本をこよなく愛しているのであろう司書たちが、禁じられた本?を秘密の部屋に隠していたことで、Rime も結局は、語られてこなかった歴史を知ることができるんですけどね。


戦いも終わり物語も終盤、というところで、 Rime が「正しい歴史」を新たに書くことを知人にほのめかすと、「より真実の歴史が本当に書けると思っているのか」とその知人から問われます。
"Hän vastasi ettei pystyisi, mutta silloin väki saisi oppia lukemaan useampia tarinoita"
…下手な意訳になりますが…
「書けはしないだろう。でも、新たな歴史が書かれれば、人々はより多くの歴史を読むということを学べるだろう。」そう彼は答えた。
 唯一の正しい歴史なんていうのはあり得ないんですよね。歴史なんて、それが書かれる時代、あるいは視点によって大きく変わり得る。きっと大事なのは、さまざまな立場から書かれたものを、自由に閲覧できるということ。そして、自分の世界で語り継がれてきた歴史が、必ずしも唯一の正しいものではないということを理解できること。そういうことなんだろうと思います。

いろんな国の世界史の教科書なんて読み比べてみると面白いでしょうねえ。きっとどの国でも、自分の国の視点で書いているでしょうから。

マイナー言語で書かれた本

もともとはノルウェー語で書かれているこの本は、フィンランド語の他に、スウェーデン語、デンマーク語、イタリア語、ポルトガル語(ブラジル)、エストニア語、チェコ語、ポーランド語に翻訳されているとか。

もし、この本がもともと英語で書かれていたとしたら、今頃日本語にも翻訳されていた?

逆に、例えば『ハリーポッター』が英語圏の作品でなかったとしたら、あれだけの人気を得ることができた?


世の中にはいろんな言語があって、それぞれの言語でいろいろな作品が書かれているはず。でも、世界的に日の目を見るのは、おそらくごく一部。英語で書かれていればともかく、マイナー言語で書かれている作品は、よその国ではあまり知られないまま終わってしまうのかもなあ。

"Mahti"の意味

最後に書名の意味です。

mahti とか 権力のこと。

mahti という言葉は普通名詞ですが、本の中では「Mahti」、固有名詞として使われています。本に描かれている世の中で重要な位置を占める何らかの力が「Mahti」と名付けられている。「大地の力」というべきか「神の力」というべきか、あるいは「気」というべきか… 何かしらそういうものを指しているようです。

ノルウェー語での書名は『Evna』。この本は英語に翻訳されてはいないようですが、英語のWikipediaページ(Siri Pettersen - Wikipedia)では、この本の英語での書名を『The Might』としています。

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