今回も、図書館の電子ブックを借りました。

Haudattu

この表紙も、フィンランドの小説によくあるパターン。つまり、フィンランド語を知らなかったらどれが書名なのかおそらくよく分からない…ということで、ちょっと説明をば。

WALLANDER は主人公の苗字。この作品は、クルト・ヴァランダー (Kurt Wallander)刑事を主人公とした推理小説シリーズの中の1つなのだということでしょう。

その次の2行が作家名。

そして、一番下の白い小さな文字が書名…全然目立ってない (~_~;) 
Haudattu
著者:Henning Mankell
訳者:Kari Koski
出版:Otava, 2013年
表紙:Timo Numminen

余生を静かな環境で過ごしたいと考えているヴァランダー。亡き父親が昔住んでいた家からさほど遠くない場所にある、売出し中の家を見に行きます。

家の手直しをする必要性はありそうなものの、ほぼ彼の望んでいた環境の家。…が、偶然庭の一角に「手」が生えている(?!)のを見つけてしまう。

庭を掘り起こして見つかったのは、数十年前に埋められた、今はもう白骨化した死体。そしてその後あらたに、もう一体の死体が見つかります。

誰の死体なのか、どういういきさつで庭に埋められたのか、ヴァランダーたちはその謎を解明していきます。

*****

小説そのものもさることながら、
Kuinka se alkoi, kuinka se päättyi ja mitä siinä välillä tapahtui
どのようにそれは始まり、どのようにそれが終わったのか。そしてその間、何が起こったのか
と題された、著者自身による巻末の記述がとても興味深いものでした。ここでいう se(それ)は、「ヴァランダーを主人公にした作品(を書くこと)」を指していると思われます。

アフリカに長期滞在後、久しぶりにスウェーデンに戻ってきた著者は、スウェーデンでレイシズムの気運が以前よりも高まっていることに気づいたのだそう。1990年のことです。

レイシズムをテーマにした作品を書くことの重要性を感じた著者は、犯罪小説を書き下ろすことにします。

その構想を練っていたころの日記から、著者が抜粋した記述の一部です。
Ajattelin, että kuvaamani poliisin täytyy ymmärtää, kuinka vaikeaa on olla hyvä poliisi. Rikokset muuttuvat samalla tavoin kuin yhteiskuntakin. Jos hän haluaa hoitaa työnsä kunnnolla, hänen täytyy tietää, mitä tapahtuu siinä yhteiskunnassa, jossa hän elää.
私は、自分がこれから描いていく警官は、よい警官であることがどれだけ難しいのか理解しなければいけないと考えた。犯罪は社会と同様変化していく。もし彼が職務をしっかりと果たしたいのなら、彼自身が生きる社会でいったい何が起きているのか知らなければならないのだ。
そして生まれたのが、刑事ヴァランダーを主人公にした最初の作品『Kasvoton kuolema(顔のない死)』(原書名『Mördare utan ansikte』。日本語版書名『殺人者の顔』)。


私自身は今まで、犯罪・推理小説の類を娯楽ととらえていました。でも、作品を通じて、社会問題の提示したり、社会のひずみを伝えようとしていることもあるのですね。そんなこと、あまり考えたことなかった…

また、この巻末部を読むことで、小説のなかだけでなく現実社会でも、犯罪はそれをとりまく社会を反映しているのだということにも気づかせられました。


ところで、1990年から27年経った今、レイシズムは相変わらず。近年特により目につくようになってきた気がします。さらに、ヨーロッパも大きく変わってきている…

この著者が現在の社会の中で生きていたとしたら、どんな作品が生まれたことでしょう? 彼が2年前、67歳で逝ってしまわれたのがとても残念です。

"Haudattu"の意味

haudattu haudata 埋葬する・埋める の受動過去分詞。ですから、書名は「埋葬された(者)」という意味でしょうか。

原作はスウェーデン語『Handen』。Google先生によれば「手」を意味するらしい。

ということは、フィンランド語の書名はスウェーデン語からそのまま訳されたのではないということですね。

著者について

著者 Henning Mankell(ヘニング・マンケル 1948年~2015年)は、スウェーデンの作家。劇場関係の仕事もされていたらしいです。

彼の作品でよく知られているのが、クルト・ヴァランダー(Kurt Wallander)警部シリーズで、これはドラマ化もされています。

日本でも知られている作家のようですね。複数の作品が日本語訳されているようですから。

でも、この『Haudattu(Handen)』は翻訳されてなさそう。Wikipedia の日本語版には、作品リストにすら挙がってなかったし…(-_-;)

《参考ページ》
ヘニング・マンケル - Wikipedia
Haudattu – Wikipedia
Haudattu | Otava (出版社による本の紹介ページ)

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